Q.テロを御研究されているようですが、韓国のテロってどういう状況ですか?法律面も含めて教えて下さい。


A.最近のニュースに慣れてしまうと、韓国のテロというとイラクやアフガニスタンで韓国人市民が殺害された事件などが思い浮かぶと思います。ただ、韓国人が本当に恐れ、そして実害を受けて来たのは北朝鮮によるテロなのです。多くのハイジャックや1983年のビルマのラングーンでのアウン・サン廟爆破事件等は韓国人の記憶に残っています。しかし、最も大きなものは1987年の大韓航空機爆破事件でしょう。115人の犠牲者という数はもちろんですが、1990年に実行犯の金賢姫が死刑判決を受けたにも係わらず、判決直後に事件の証人であることや、北朝鮮とのその後の交渉も意図してか、特赦で無罪釈放となったことは国によるテロの解決の難しさを多くの韓国人に実感させたのでした。そして、実行犯の特赦を受け止めざるを得なかった遺族は事件の補償に関しても、事件の1ヶ月後に法的な根拠も示されることの無いまま一律7900万ウォンの補償金が支払われるとの対応がとられたのみで、十分な説明を受けてきませんでした。その痛みは今も残り続け、彼らはKAL858機遺族会として活発な活動を続けています。
KAL858機遺族会

また、その事件が起きた背景には米ソの冷戦もありました。朝鮮戦争を経て国家分断の中にある韓国は、アメリカとの関係を日本より一層重視しなければなりません。そのため、9.11同時多発テロ以後のアメリカ軍を中心とした「対テロ戦争」に参戦してきたのです。その中で、2004年のイラクでの金鮮一氏殺害事件や2007年のアフガニスタンにおけるセンムル教会会員拉致事件が発生しました。それを受けて、2001年から続く包括的テロ防止法制定を目指す動きは加速しました。ハンナラ党は事件を受けて「国家対テロ活動に関する基本法案」を2008年に提出したのです。しかし、法案の中に人権を侵害する可能性がある事項(国家情報院の過度の権力強化、テロの定義の不明瞭性など)があったり、法案作成の中心人物(孔星鎭氏)が政治的に不安定な立場に立たされたことなどにより、2011年現在も毎年のように与野党を問わず提出されているテロ防止法案はいずれも廃案になっています。

そして、国際法との関係でいえば、韓国はテロ関連の国際法として主要な13個の条約の内、「核によるテロリズム行為の防止に関する条約」だけは署名はしたものの、締結に至っていません(日本は受諾済み)。これは同条約に対し、同様の姿勢をとるアメリカに配慮した面があるかもしれません。日本は唯一の被爆国(厳密には唯一戦争において原爆を使用された国)としての立場もあったと思うのですが、この点は評価したいと思います。

ただ、先に挙げました大韓航空機爆破事件のその後の補償に関して韓国が大きな問題を抱えているのと同じく、日本もテロ事件であるオウム真理教によるサリン事件に対する補償等、テロの被害者に対する対応は十分ではありません。その表れとして、先の韓国の遺族会同様、日本では「地下鉄サリン事件被害者の会」が精力的な活動を続けていることが挙げられます。事件から10年以上が経過した2008年に、遺族らの活動を受けて「オウム真理教犯罪被害者等を救済するための給付金の支給に関する法律(オウム真理教犯罪被害者救済法)」が制定されたものの、特に重篤な被害を受けた人に関しては肉体的被害に対しての完全な補償にすら至っていないのが現状です。様々なテロに係わる被害者団体が活動を続けなくて済む体制が必要ではないでしょうか。テロが国家に対して行われた以上、その被害者は国によって保護されなければならないと私は考えています。なぜなら、一般的に国家テロを除けば、テロリストは財政的に補償が行えるレベルにないので、甚大な被害を受けた家族がより一層苦しむ事態になってしまうからです。これは日韓両国が解決しなければいけない課題でありましょう。